ハクソー・リッジ

ハクソー・リッジ


(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

銃も手榴弾もナイフさえも、何ひとつ武器を持たずに第2次世界大戦・沖縄の激戦地(ハクソー・リッジ)を駆けまわり、たった1人で75人もの命を救った男がいた。彼の名は、デズモンド・ドス。重傷を負って倒れている日本兵に手当てを施したことさえある。終戦後、良心的兵役拒否者としては、アメリカ史上初めての名誉勲章が授与された。
なぜ、彼は武器を持つことを拒んだのか?なんのために、命を救い続けたのか? いったいどうやって、奇跡を成し遂げたのか?“命を奪う戦場で、命を救おうとした”1人の男の葛藤と強い信念を浮き彫りにしていく─実話から生まれた衝撃の物語。

〈ハクソー・リッジとは…〉
第2次世界大戦の激戦地・沖縄の前田高地のこと。多くの死者を出した壮絶な戦いの場として知られている。ハクソーとは弓鋸で、リッジとは崖の意味。150メートルの断崖絶壁の崖が、のこぎりのように険しくなっていたことから、最大の苦戦を強いられたアメリカ軍が、“ハクソー・リッジ”と呼んだ。

第2次世界大戦が日に日に激化し、デズモンドの弟も周りの友人たちも次々と出征する。そんな中、子供時代の苦い経験から、「汝、殺すことなかれ」という教えを大切にしてきたデズモンドは、「衛生兵であれば自分も国に尽くすことができる」と陸軍に志願する。グローヴァー大尉(サム・ワーシントン)の部隊に配属され、ジャクソン基地で上官のハウエル軍曹(ヴィンス・ヴォーン)から厳しい訓練を受けるデズモンド。体力には自信があり、戦場に見立てた泥道を這いずり回り、全速力で障害物によじ登るのは何の苦もなかった。だが、狙撃の訓練が始まった時、デズモンドは断固として銃に触れることを拒絶する。軍務には何の問題もなく「人を殺せないだけです」と主張するデズモンドは、「戦争は人を殺すことだ」と呆れるグローヴァー大尉から、命令に従えないのなら、除隊しろと宣告される。その日から、上官と兵士たちの嫌がらせが始まるが、デズモンドの決意は微塵も揺るがなかった。しかし、ついに命令拒否として軍法会議にかけられることになる。
「皆は殺すが、僕は助けたい」─軍法会議で堂々と宣言するデズモンド。ところが、意外な人物の尽力で、デズモンドの主張は認められ、武器を持たずに戦場に向かうことを許可される。
 1945年5月、沖縄。グローヴァー大尉に率いられて、「ハクソー・リッジ」に到着したデズモンドら兵士たち。先発部隊が6回登って6回撃退された末に壊滅した激戦地だ。150mの絶壁を登り、前進した瞬間、四方八方からの攻撃で、秒速で倒れていく兵士たち。ひるむことなく何度でも、戦場に散らばった命を拾い続けるデズモンド。しかし、武器を持たないデズモンドに、さらなる過酷な戦いが待ち受けていた…。


(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

幼少期に観たTV『コンバット』で、戦うことが目的の兵士の中に、“衛生兵“という戦わない兵士がいることを知った。役名はドク(2人いたが、有名なのはカーター)。彼は戦闘をせず、負傷した仲間に黙々と応急処置を施していた。なぜ撃たれてしまうかもしれないのに、銃弾の下をかいくぐり、ただ仲間を助けるだけしかしないのか? 当時の私たちにとっても、地味な役割のためか人気がなかった。やはり子供にとっては、人の命を救う崇高な使命なんて全然わからなかったのである。その衛生兵(カーター)でも護身用に拳銃は携行していたのだから、「敵を殺さなければ自分が殺される」という過酷な状況において武器を持たずに従軍するには、個人にとっても強靭な精神力が必要だったし、部隊の仲間にとっては、命を預けられない厄介な忌むべき存在であったに違いない。それが隊内のイジメの対象となったことも当然だと思う。

それでも、それでもだ。「皆は殺すが、僕は助けたい」と軍法会議で宣言するデズモンド。「信念を曲げたら生きていけない!」それが信仰心というものなのか?かくも強靱なものなのか?どこまで信念を貫けるものなのか? 信仰心の薄い私などはただただ驚嘆であった。信仰心といえば、奇しくもアンドリュー・ガーフィールドは本作と、先に公開された『沈黙 -サイレンス-』の中でも信仰心について言及している。舞台は同じ日本。ただしこちらはハッピーエンドではない重いテーマだったが…。


(C)Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016

さて、本作では3つの世界が舞台として描かれる。デズモンドの命に対する確固たる信念が培われた少年期、兵舎、そして狂気に満ちたハクソー・リッジである。デズモンドの信念がいかに強靭なものであったかを描くためにも、その対比としてメル・ギブソン監督は、戦場が悲惨極まりなかったことを描く必要があった。
映画の戦闘シーンは『プライベート・ライアン』以降、年々、超リアルに描かれるようになってきた。すでに独立戦争やベトナム戦争の戦闘シーンを描いてきたギブソンだが、今回初めて第2次世界大戦を描くことになった。ギブソン流アプローチは、とにかくできるだけ現実に近付ける、なるべくCGを使わずに、カメラでの撮影の効果を最大限に利用する、“全てを実際に行う”というもの。結果、『ハクソー・リッジ』はリアル感においては、自分が実際にその世界にいるかのように感じられ、悲惨さにおいて今までのどの作品よりも群を抜いており残酷極まるものとなった。私は、日本兵よりも、感情移入は完全に米軍になってしまうという、複雑な気持ちになってしまったが、ことさらに日本兵の狡猾さ、残酷さを強調するような描き方はされていない。とかく残酷な戦場描写が話題になりそうな本作だが、第89回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門でノミネートされ、編集賞と録音賞の2部門を受賞。単純な戦争アクションではなく、信仰心の力をテーマにした強烈な作品である。

<CREDIT>

■出演者:アンドリュー・ガーフィールド、サム・ワーシントン、テリーサ・パーマー、ヴィンス・ヴォーン、ヒューゴ・ウィーヴィング
■監督:メル・ギブソン
■配給:キノフィルムズ
■2016年/アメリカ・オーストラリア/139分
■原題:『Hacksaw Ridge』

2017年6月24日(土)全国ロードショー

公式ホームページ
http://hacksawridge.jp/

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【ライター】戸岐和宏

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2017年6月19日 by p-movie.com

マリアンヌ

マリアンヌ
(C)2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved

1942年、イギリスの特殊作戦執行部(SOE)の緊急任務のため、諜報員マックス・ヴェイタン(ブラッド・ピット)はドイツ占領下のカサブランカにパラシュートで降り立つ。そこで、彼は魅力的なフランス軍レジスタンスの女性マリアンヌ(マリオン・コティヤール)と出会う。決して交わることのない人生を歩んでいた2人を、ある重大なミッションが引き合わせる。それは、夫婦を装い、滞在中のドイツ軍大使を暗殺するというもの。彼はミッションを遂行する上で、ただ一つの信条を持っていた。それはパートナーと決して恋に落ちないこと。だがミッションを成し遂げるとともに、真面目で孤独な男だったマックスの抑えきれない感情が、初めて声になる。「一緒にロンドンへ行こう、結婚してほしい」
数週間後、ロンドンの街角にある小さなカフェでささやかな結婚式を挙げる。マックスの信頼する上司フランク(ジャレッド・ハリス)たちの前で愛を確かめあう2人。やがて最愛の娘も生まれ、初めて送る幸せな生活を噛みしめて過ごしていた矢先、彼は諜報部から信じられない話を聞かされる。

「マリアンヌには、二重スパイの疑いがある」 「疑惑は72時間以内に判明する。二重スパイであれば、君自身の手で終わらせなければならない。」

マックスの目に映る日常が一変し、マリアンヌの些細な行動でさえ全て疑わしく思えた。だが唯一変わらないもの、それは彼女への愛おしさだった。マックスは彼女の疑惑が偽りであることを証明するために奔走する。果たしてマリアンヌの正体とは? そして2人が導き出した選択は?


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監督は『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)、『キャスト・アウェイ』(00)、『ザ・ウォーク』(15)など数々の革新的な作品を手がけてアカデミー賞受賞経験を持つロバート・ゼメキス。脚本を読むとすぐに、ゼメキスには映画のスタイルに対する確固たるビジョンが見えたという。第二次世界大戦の荒廃を描くだけでなく、生の奇跡に陶酔した人びとの熱気や活気に満ちた生活。緊迫しながらもまぶしく華やかな占領下のカサブランカを、何もなく風の強いモロッコの砂漠の美しさを、ベーカー・ストリートにある特殊作戦執行部オフィスの陰のさす廊下を、連合軍が攻撃に失敗し、ナチスに支配されレジスタンスが抵抗しているフランスのデュエップの危険な状況を、空襲で荒廃しながらも屈しないロンドンを、21世紀スタイルの活気を持って再創造した。 
また、ゼメキスは映画の主観的な視点を途中でマックスからマリアンヌに切り替え、語りや全体的なビジュアルの雰囲気も合わせて切り替えることを考えていた。映画の前半は砂丘や屋上といった広く開放的な風景に満ちており、後半は世界がマックスとマリアンヌを追い込んでいくに合わせて、狭苦しい部屋や、尋問をするオフィスや、フランスの刑務所や、窮屈なコックピットなど、より狭い場所で展開される。視覚表現にこだわる彼の面目躍如といったところだ。

ところで、ブラッド・ピットの前作『フューリー』(14)では稼動可能なティーガー戦車が登場し話題となったが、本作『マリアンヌ』でも話題となっているのが、マックスが操縦するこれまた希少な航空機ウェストランド・ライサンダーだ。マリアンヌがスパイでないことを証明する個人的なミッションに臨む彼は、これに乗ってフランスのディエップへと向かう。イギリス空軍が第二次世界大戦中に使用したこの航空機は、本作で描かれるように短距離離着陸性能を生かして、人里離れた場所に着陸する(秘密連絡員輸送のため)にはうってつけだった。では今回も本物か?残念ながら、本作に使用された航空機は、当時のものとスペックまで合わせて作られたレプリカである。


(C)2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved

『マリアンヌ』は入り組んだスパイスリラーでもあり、心奪われる戦争ドラマでもあるが、本質は混乱と国際関係の瀬戸際に放り出されたマックスとマリアンヌの疑念、危機、無償の愛を描いた情熱的なラブストーリーである。この2人の諜報員は、運命的なロマンスの相手か、宿命の敵か、あるいはその両方なのか? カサブランカ、空襲下のロンドン、そしてドイツ支配下のフランスに至るまで、豪華で視覚性に富んだ舞台の中で、ゼメキスはハリウッド黄金期に隆盛したような壮大な物語―ミステリーと、スリルと、愛に満ちた物語―を生み出しながら、観る者を引きつける豊かな力を駆使して本作を仕上げた。すべては胸が張り裂けるような選択へとつながっていくものの、未来への希望の一歩も踏み出される。私たちは、身を乗り出し、必ずや心を揺さぶられるだろう。

<CREDIT>

■出演者:ブラッド・ピット、マリオン・コティヤール、ジャレッド・ハリス
■監督:ロバート・ゼメキス
■配給:東和ピクチャーズ
■2016年/アメリカ/124分
■原題:『ALLIED』

2017年2月10日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズ 他 全国公開

公式ホームページ
http://marianne-movie.jp/

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【ライター】戸岐和宏

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2017年2月9日 by p-movie.com

スター・トレックBEYOND

スタートレック
ⓒ2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved. STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc.

宇宙の最果てにある未知の領域への5年間の探査任務に就いてから3年目―。宇宙基地・ヨークタウンから、未知の星に不時着した探査船を救出する任務に出発したカーク船長(クリス・パイン)率いるエンタープライズ号(NCC-1701)に突然、謎の異星人・クラール(イドリス・エルバ)に率いられた無数の攻撃機が襲いかかる。激しく応戦するも彼らの容赦のない攻撃に、遂にエンタープライズ号は大破し、制御不能に陥る。カークとクルーたちは、脱出ポッドで船を離れ、エンタープライズ号が墜落していく姿を目にしながら、見知らぬ惑星に不時着する。カークは、離れ離れになったクル―とエンタープライズ号の捜索を開始する中で、ジェイラ(ソフィア・ブテラ)という謎の女性戦士と出会う。そして、ある場所に案内される。そこにあったのは、およそ100年前に消息を絶った艦隊の英雄・エディソンが乗船していたフランクリン号(NX-326)だった。そこに残されていたものとは…。

一方、クラールは、手薄になった宇宙基地・ヨークタウンへの攻撃を開始する。カークは、クルーたちを救い出し、生還できるのか!? 最果ての宇宙で、限界を超えた壮絶な戦いが始まる―


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誰もが知る人気コンテンツを、壮大なスペクタクルとドラマティックなストーリーによって全く新しいSFアクション超大作シリーズに創り上げた、ハリウッドのみならずいま世界が最も注目するヒット・メーカー、J・J・エイブラムス。彼が監督を務めたシリーズ前2作は、全世界において約8億5,300万ドルを稼ぎ出す大ヒットを記録。

その大ヒットシリーズの最新作『スター・トレック BEYOND』は、J・J・エイブラムスがプロデューサーを務め、監督には常識を覆す卓越したアクションで全世界を熱狂させた『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンを抜擢、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』、『ワイルド・スピード』シリーズの2大トップフィルムメーカーの最強コラボレーションが最新作で実現することになった。脚本は前作に引き続き、スコッティ役として本作にも登場するサイモン・ペッグと共にダグ・ユングが務める。またキャストでは、クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、カール・アーバン、ジョン・チョウ、アントン・イェルチンらお馴染みのメンバーの他に、イドリス・エルバ、ソフィア・ブテラ、ジョー・タスリムといった新キャストも加わり、スター・トレックの世界をより魅力的なものにしている。


ⓒ2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved. STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc.

『スター・ウォーズ』、『スター・トレック』このSF映画2トップを知らないアメリカ人はいない。『スター・トレック』は1966年から始まったTVドラマシリーズ。5シリーズ(全話703話にもなる大河ドラマ!!)、劇場用映画は本作を含めて13本もある。惑星間の和平を目指す、宇宙探査船エンタープライズ号の乗組員たちの冒険を描いたものだが、人種差別の激しかった当時のアメリカ、冷戦中という時代背景にもかかわらず、あらゆる人種を乗せた差別のなくなった時代の船という画期的な設定、物語の高尚な設定が単なる宇宙活劇とは違い、トレッキー、トレッキアンのようなファンを生み出していった。

ちなみに『スター・ウォーズ』のファンはスターウォーズマニアと呼ばれているらしいが、ファン心理はそれぞれ一線を画しているようだ。日本での人気はどうか?うーん圧倒的に『スター・ウォーズ』に軍配が上がるだろう。どうも日本人にとっては政治的臭いのするドラマは苦手なようだ。わかりやすい単純なアクションものの方が受けはいいようである。といってもやはり、J・J・エイブラムスによる監督、製作の2009年からリブートされた新3作は前の10作に比べてよりアクションが強調されており、より『スター・ウォーズ』的になってきたようだ。つまり裾野が広がり、誰でも入門しやすい作品になってきた。

エンタープライズ号と無数の敵攻撃機の戦闘、宇宙基地・ヨークタウンでの攻防戦はかつてないスピード感あふれる映像と、リアルな超絶アクションで描かれる。また、不時着したカークたちの前に現れる100年前の旧型船は、TVドラマ『エンタープライズ』(カーク船長の時代の約100年前を描いた)の宇宙探査船エンタープライズ号(NX級といわれるNX-01)の同型船フランクリン号(NX-326)、そこに残されていた、クラールの謎を解く旧地球連合宇宙艦隊時代の映像、最後にドックで建設中の船が、NCCエンタープライズ1701Aとなっていることなどに、トレッキーはニャリとしてしまうに違いない。最新作『スター・トレック BEYOND』は、エンタープライズ号のクルーが宇宙の最果てにある未知の領域を探索し、そこで彼らや惑星連邦の存在意義の真価を問う新たな謎の敵と遭遇する物語だが、本作は、シリーズ誕生50周年にふさわしい最高のアクション超大作となっている。ぜひ劇場で楽しんでほしい。

<CREDIT>

■出演者:クリス・パイン、ザッカリー・クイント、カール・アーバン、ゾーイ・サルダナ、
サイモン・ペッグ、ジョン・チョウ、アントン・イェルチン、イドリス・エルバ、ソフィア・ブテラ
■共同脚本:サイモン・ペッグ & ダグ・ユング
■監督:ジャスティン・リン
■配給:東和ピクチャーズ
■2016年/アメリカ/123分
■原題:『STARTREK BEYOND』

2016年10月21日(金)
全国順次ロードショー

公式ホームページ
http://startrek-movie.jp/

ⓒ2016 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc.

【ライター】戸岐和宏

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2016年10月17日 by p-movie.com

ズートピア


©2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

ズートピア、それは動物たちによるハイテクな文明社会、そして「誰でも夢を叶えられる」という楽園。そこから遠く離れた田舎町バニーバロウで育ったウサギのジュディには、幼い頃から「世界をよりよくするために憧れのズートピアで最高の警察官になる」という夢があった。でも警察官になれるのは、サイやカバなどタフな動物だけ。小さくて可愛いウサギの人生は、農場でニンジン作りに従事することと決まっているのだ。けれど彼女は夢をあきらめず、大きな動物たちに混じって警察学校をトップで卒業。史上初のウサギの警察官として希望に胸ふくらませ、ズートピアにやって来る。

だがズートピア警察署でスイギュウの署長のボゴから与えられた任務は、駐車違反の取締り。能力を認めようとしないボゴに憤慨したジュディは、カワウソのオッタートンの行方不明事件を「私が探します」と宣言する。彼女を「小さな動物の誇り」と考えるヒツジのベルウェザー副市長の後押しもあって、ボゴは苦々しい顔でジュディにこう言い渡す。「お前に2日間やる。だが失敗したらクビだ!」

とうとう活躍のチャンスを得て、ジュディは大興奮。でも手がかりはほとんどない。唯一かすかな手がかりを知る者は、この街のことは何でも知っているキツネの詐欺師のニック。大嫌いな警察に協力するなどあり得ないニックだったが、彼の”企業秘密“を握るジュディが上手だった。ニックはため息をつきながら、捜査の手伝いをするはめに…。ニックと共に事件を追うジュディだったが、大きな成果を得られないまま、“約束の2日間”も残り10時間。ついにジュディはボゴから「クビ」を宣告されてしまうのだった。耳をたれ、深く落ち込むジュディ。だがそのとき、夢を失う危機にある彼女を救ったのは、ニックの意外な一言だった…。はたして“夢を信じる”ジュディは、ニックを変え、そして“楽園”の危機にあるズートピアを変えることができるのか?


©2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

映画の序盤、私たちは、故郷の田舎町《バニーバロウ》から憧れのズートピアへと向かうジュディと共に、初めて見る楽園の壮大で色彩豊かな景観に胸躍らせる。砂漠の高級リゾート地《サハラ・スクエア》や白銀輝く氷雪のエリア《ツンドラ・タウン》、活気に満ちたダウンタウン《サバンナ・セントラル》…。そこは動物たちが動物たちのために設計した大都会。莫大な数の多様な動物たちが行き交う光景は壮観だ。彼らは服を着て二本足で歩き、家族を持ち、通勤し、ハイテク機器を駆使して暮らしている。まるで人間の私たちのように。でも本来の種特有の動物らしさ(体のサイズや動き方、「なぜだかどうしても遠吠えしてしまう」的な行動や習慣まで)は、失ってはいないのだ。

かつてウォルト・ディズニーは、『バンビ』を作るにあたり、2匹の小鹿をスタジオに入れ、スタッフたちに動きを研究させたという。『ライオン・キング』では、アフリカにリサーチ旅行をし、スタジオには本物のライオンが連れてこられた。ジョン・ラセターもまた、「徹底的なリサーチ」を信条とする製作者だ。こうして動物たちのリアリティを追究するというディズニーの伝統は、本作にしっかりと受け継がれ、監督やアーティストたちは、動物たちのリサーチだけで18か月を費やしたという。こうして「文明社会を作り上げた動物たち」を、観る者に実感させるリアリティは実現されたのである。

また、街は、誰もが快適に生活できるようなユニークなアイディアに溢れている。大きな交通システムの中に小さな交通システムがあったり、小さな動物の出入り口としてチューブが活用されたり、多様性のある都市作りがなされているのだ。そう、ここは、かつての肉食動物も草食動物も、大きな動物も小さな動物も、あらゆるタイプの動物たちが平和に暮らし、「誰でも夢を叶えることができる」という楽園なのだ。

ここでトリビアを紹介。
N.Y.の有名ブランドを思わせるオシャレな看板。
あの有名コーヒー店がズートピアに進出?!
歩行者用信号のサインはもちろん動物!
“ニンジン”マークのスマホが大流行。動物の大きさに合わせてサイズも充実!
ニュースを扱うメディアも多数。忙しいビジネスマンは新聞を持ち歩く。
などなど、観る度に新しい発見があり魅了されるハズ!

さて「ディズニー・アニメーション」のヒーロー、ヒロインたちは時代を映す鏡。共通なのは、初めは頼りない、目立たない存在であっても、逆境に立ち向かい、更には周りを巻き込んで成長していく。必ず人々に「メッセージ」を伝えて。言ってしまえば“鉄板ネタ“とも言える。だが毎回観てしまうのはなぜだろうか? それは完全とも言えるユニークな世界観(毎回、他に例のない、初めて!ということが驚異的!)の下、観る者を釘づけにするサスペンスやアクション、分かりやすいストーリーにもかかわらず、意外性の効いたハートに満ちた物語に満ちている。更には毎回大きなメッセージが込められているということではなだろうか。観終わった後、このメッセージを誰もが何となく感じられるというのも「ディズニー・アニメーション」の持つすごさではないかと思う。

しかも、日本のアニメーションではタブーとされることでも、タブー視せずに正面から提言していくという姿勢はさすが多民族国家アメリカであり、脱帽である。たとえば前作『アーロと少年』では恐竜絶滅が起こらなかったらという仮説に基づき、恐竜が地上で唯一言葉を話す種族として存在している世界を舞台に少年スポットとの成長を描いた。人間をまるで犬、ペットのように表現していることに、私は、初め嫌悪感すら覚えたが、ディズニーマジック? 途中からはふたりの成長、「メッセージ」に関心が移り、最後は「うーん、納得」となった。『ファインディング・ニモ』ではニモは障害キャラであったし、今回の『ズートピア』のジュディとニックは社会的マイノリティであり、ふたりを通して人間社会が抱える社会問題への提議、すなわち性別、出身地、学歴、人種の違いなどから生まれる偏見について描かれているのだ。夢を信じて諦めずに進み続ければ、きっと世界は変わる。『アナと雪の女王』、『ベイマックス』に続いてディズニーの新たな歴史を拓く感動のファンタジー・アドベンチャー『ズートピア』が、世界に希望の扉を開く。

©2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

<CREDIT>

■声の出演:
ジュディ・ホップス:ジニファー・グッドウィン
ニック・ワイルド:ジャイソン・ベイトマン
チーフ・ボゴ:イドリス・エルバ
クロウハウザー:ネイト・トランス
ライオンハート市長:J. K. シモンズ
ベルウェザー副市長:ジェニー・スレイト
フィニック:トミー・“タイニー”・リスター
フラッシュ:レイモンド・パーシ
オッタートン夫人:オクタヴィア・スペンサー
ガゼル:シャキーラ
■製作総指揮:ジョン・ラセター
■監督:バイロン・ハワード/リッチ・ムーア
■配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
■2016年/アメリカ/109分
■原題:『ZOOTOPIA』

2016年4月23日(土)ロードショー
公式ホームページ 
http://www.disney.co.jp/movie/zootopia.html
©2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

【ライター】戸岐和宏

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2016年4月19日 by p-movie.com

ザ・ウォーク

「僕はよく訊かれる。“なぜ綱渡りをするの?”“なぜ死の危険を冒す?”――綱渡りと死は別だ。僕にとって綱渡りは人生そのものだ」と、フィリップ・プティ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は語る。細いワイヤーの上を歩き続けてきた彼は、そこでどんな夢を見たのか……?

8歳の時、故郷のフランスの町に、“世界一の綱渡り一座”と呼ばれるサーカス団、通称“白い悪魔たち”がやってくる。彼らの妙技に魅せられたフィリップ・プティは、独学で綱渡りの術を体得し、“白い悪魔たち”の門を叩く。ところが、座長のパパ・ルディ(ベン・キングズレー)とは考え方の違いから決裂する。

1973年。パリで綱渡りを披露していたフィリップは、雑誌でNYに建設中のツインタワー・ビル、ワールドトレードセンターの記事を見つける。完成すれば世界最層のビルになるというその写真を見た瞬間、衝撃が駆け抜けた。このツインタワーの屋上と屋上の間にワイヤーを架けて歩く…。危険極まりない違法行為ながら、その夢に囚われた彼は、実現に向かって走り始める。フィリップは正しいワイヤーの張り方を習得しようと、パパ・ルディに頭を下げて“白い悪魔たち”の下で改めて修行を積む。ベテランのルディでさえワールドトレードセンターの話は正気の沙汰と思えなかったが、フィリップが真剣であることを知り出来る限りサポートする。フィリップは、ノートルダム寺院の二つの塔の間にワイヤーを架けた綱渡りを計画。夜中に寺院に侵入してワイヤーを渡し、朝に綱渡りを敢行した彼はパリっ子たちの喝采を浴びた後に逮捕される。新聞では徹底的に叩かれ、落胆するも、同じ新聞にワールドトレードセンターの“入居開始”の記事を見つけついにNYへ向かう。

110階にもなる実物のツインタワーを見上げ、フィリップの決心は揺らぐが、“不可能だ、それでもやる”――かくして、新たな闘いが始まった。建築作業員や松葉杖のケガ人を装ってタワーに侵入し、警備員の巡回やトラックの搬入時間をチェック。タワー間の正確な距離を調べ、ワイヤーを通す方法を模索。仲間と共に準備を進めてゆく。決行の日を1974年8月6日朝6時に定めた。そして決行前夜、搬入作業員を装ったフィリップたちは、ワールドトレードセンターの屋上へ向かう。だが、その行く手には、様々なトラブルが待ち受けていた……。

1974年、地上110階、当時世界最高層だったNYのツインタワー・ビル、ワールドトレードセンター。完成したばかりの、この屋上と屋上の間に一本のワイヤーを張り、命綱も付けずに歩いた男がいた!その男とはフィリップ・プティ。この伝説の男プティ役を『インセプション』で注目された若手実力派俳優、ジョセフ・ゴードン=レヴィットが演じる。実在の綱渡り師、プティの人間像は2008年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した『マン・オン・ワイヤー』でもスポットが当てられていたが、『ザ・ウォーク』で描かれるのは、ワールドトレードセンターを“制覇”した彼の25歳までの半生。情熱に満ち溢れ、行動力が何よりもモノを言う、若き日の物語だ。監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』そして『フォレスト・ガンプ/一期一会』『キャスト・アウェイ』『フライト』などで知られるアカデミー賞監督ロバート・ゼメキス。ご存じのとおり、ワールドトレードセンターは2001年に起こった、9.11同時多発テロによって崩壊し、現在はそこに建っていない。ロケも現地調査も行えないのは映画製作には圧倒的な逆境だが、それでも“映像の魔術師”ゼメキスはワールドトレードセンターを描くという離れ業をやってのけた。この怪物のような超高層ビルを含む1970年代NY、マンハッタンの完璧な再現、見下ろせば足がすくみ、冷や汗が流れてくる空中描写は、恐怖を感じさせるとともに、主人公フィリップ・プティとともに摩天楼を行く興奮を体感させる。

この作品、簡単にいえば“フィリップ・プティがワールドトレードセンターの屋上と屋上の間を綱渡りしたという話”である。実話に忠実につくられているため、無駄なお話しが全然ない。そのためストーリーはラストの綱渡りに向かって小気味よく進んでいくので、ストレスも感じずに観ることができた。がしかしである。彼が決行前夜に様々なトラブルに遭遇するあたりから、シートにじっとしていられなくなる。411mもの高さの夜の屋上で起きるトラブル。例えば、警備員が見回りに来たために彼は隠れるのだが、普通の人ならば屋上内の何かの物陰に隠れるとかするであろう。だが、高さに恐怖を感じない彼はどうするのか? 彼は、フェンスもない屋上の外側のでっぱり(そこから先は411mの高さの空間)にヒョヒョヒョイと跳ねて行って隠れるのである。CGということはわかっているが、わかっていても思わず腰が引けてしまうのだ。「おいおい、跳ねるなよ!そこで!」「どうしてそんな細いとこを歩くの!」「だから、動くなって!」などと思わず叫んでしまいそうになる自分がそこにいる。私は実際のジェットコースターなどの高所系アトラクションは平気である。なぜなら、それはほぼ100%安全で、軌道を外れて事故になるなど想像しないから(高所恐怖症の人は、自分が落下することを想像するらしい)である。にもかかわらず、ゼメキスの3Dの効果を計算し尽くした、最大限の視覚的効果にやられてしまった。ここからである。ラストまで、冷や汗と、手汗が流れ続けたのは…。ハンカチではなく汗用のタオルは必需品かもしれない!更には夜が明けての鮮やかな下界の様子は、クラクラっと自分がシートから浮いてスーッと吸いこまれてしまうのでご用心。(CGとわかっていてもね)

さて、綱渡りが始まるとさすがに息を止めて見入ってしまう(もちろん実際、落下せずに成功した事は心の中ではわかっているが)。フィリップ・プティはゆっくりとワイヤーを踏みしめていくのだが、カメラワークまで時折下にグッと落ちていくので「おおっ」と心臓に悪い。これとてゼメキスの仕掛けであろう。ラスト20分が綱渡りのシーンであるが彼はワイヤー上でターンしたり、やっと渡り終えるのかと思いきや、何度も往復してみたり、最後はワイヤー上で横たわったりと、「もーやめてくれー」と何度も心臓をもてあそばれた。この作品は3Dという技術の正しい使い方がなされた、本物の体感ムービーと言える。いや観客全員に高さ411mの綱渡りを体感させるスリルあふれる、100%安全なアミューズメント・ライドかもしれない!

<CREDIT>

■出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、ジェームズ・バッジ・デール
■監督:ロバート・ゼメキス
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■2015年/アメリカ/123分
■原題:『The Walk』
2016年1月23日(土)全国ロードショー <IMAX3D>上映も決定!
公式ホームページ
http://www.thewalk-movie.jp/

【ライター】戸岐和宏

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2016年1月18日 by p-movie.com