007 スカイフォール

史上最高の007映画がやってくる!



Skyfall (C) 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

「007 慰めの報酬」から4年、製作スタジオMGMの経営再建を経てようやく007の新作がお目見えした。今回の話題は何よりも「アメリカン・ビューティー」のサム・メンデスが監督を務めることに尽きる。いったい彼はこの伝統キャラをどう調理しようというのか?そしてこのオスカー受賞監督はボンド印の超絶アクションを創出できるのだろうか?

この映画が終わるころに観客は気づくだろう。何の不安もいらないどころか、ボンド史上最強の1作を目の当たりにしてしまった、と――。

本作はトルコのイスタンブールにて幕を開ける。強奪されたファイルをめぐるチェイスの末にジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は仲間の援護射撃によって被弾。谷底へ落下し、一時は死亡したものと処理される。しかしボンドは生きていた。女を抱き、酒をあおり、しばし自堕落な生活に身を浸す彼。だが、そんな矢先、英国諜報部MI6で巻き起こったシステムハッキング、そして本部の爆破という異常事態を知る。犯人はどうやら上司M(ジュディ・デンチ)に対し激しい憎悪を抱く人物らしい。00ナンバーとして現役復帰したボンドはその真犯人を追いかけて上海、マカオ、そしてロンドンへ飛ぶのだが・・・・・・。

シリーズ誕生50周年を記念する本作は、いつものボンド映画でありながら、またいつもとちょっと違う。何かズシリと重い決着をつけようとしているような予感が散りばめられ、中でも主人公ジェームズ・ボンドの出自を紐解こうとするくだりは今後に受け継がれる大きな伏線となりそうだ。

とはいえ、007に詳しくない人でも本作はひとつの作品として充分に楽しめる。生身にこだわったアクション・シークエンスはとことん魅せるし、悪役シルヴァを演じるハビエル・バルデムはオスカー受賞俳優ならではのとんでもない怪演を見せつける。そして何よりもこの映画はクリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」シリーズがそうだったように、この混沌とした時代(その元凶たるシルヴァはまるでジョーカーやベインのようだ)に起つ英雄たちの奮闘を重厚なまでに謳い上げる筆致に満ちている。

またこの映画をめぐるもうひとつのキーワードは“ロンドン”だ。このオリンピック・イヤーの壮大なフィナーレを奏でるかのごとく、登場人物たちはそれぞれに壮絶なるチェイスの果てにこの国際都市へと導かれていく。かつて007がこれほど大胆にロンドンをフィーチャーしたことがあっただろうか。それに加えて、伝統と革新のせめぎ合いをテーマに掲げた本作は、そのままロンドン、あるいは英国という存在が歩んできた歴史の象徴にさえ思えてくる。

これほどの精神性の密度の高い本作を織り成すにあたっては、やはりオスカー受賞のみならず、シェイクスピアから現代劇まで幅広く手掛ける舞台監督でもあるサム・メンデスの起用以外にありえなかった。彼だからこそボンドの伝統と革新を描けたのであり、ジュディ・デンチやレイフ・ファインズといった錚々たる顔ぶれを巧みに使いこなせたのだろう。

そしてその中央には、まるでシェイクスピア劇から飛び出してきたキャラのような格調高さと人間味を帯びたジェームズ・ボンドの姿。

彼の放つ弾丸は、ボンド史50年を締めくくる合図であると同時に、まさに新たな50年のはじまりを祝福する荘厳な鐘音でもあるのだった。

<CREDIT>

■出演者:ハビエル・バルデム、ジュディ・デンチ、ベレニス・マーロウ、ナオミ・ハリス、レイフ・ファインズ、
アルバート・フィニー 他
■監督: サム・メンデス
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

2012年12月1日TOHOシネマズ日劇ほかお正月ロードショー
公式ホームページ http://www.skyfall.jp/

Skyfall (C) 2012 Danjaq, LLC, United Artists Corporation, Columbia Pictures Industries, Inc. All rights reserved.

【ライター】牛津厚信

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カテゴリー: アクション | アメリカ | ヨーロッパ | 映画レビュー

2012年11月14日 by p-movie.com

エクスペンダブルズ2


(C) 2012 Barney’s Christmas, Inc. All Rights Reserved.

知性が服を着たような本サイトの主催者O氏には呆れられるかもしれないが、根が単純で、あまり頭も良くないせいか、難しい理屈をこねくり回す映画よりも、ドンパチ満載のスカッとしたアクションの方が性に合っている。そんな人間にとって、本シリーズの前作は、欣喜雀躍、狂喜乱舞の作品であった。
さて、その続編で、悪役が、私が、本格デビューの「キックボクサー」以来、全劇場公開作を見ているジャン=クロード・ヴァン・ダム、さらに引退していたチャック・ノリスがカムバック出演とくれば、喜び勇んで試写室に出かけ、大いに楽しんだのもご理解いただけるだろう。

チベット国境に近いネパール北東部シンドゥバルチョーク地区。自らを消耗品(エクスペンダブルズ)と称する傭兵部隊、軍用銃のエキスパート、バーニー・ロス(シルベスター・スタローン)率いるつわもの達は、軍団武装反乱軍がアジトにする郊外の工場跡地に向かった。任務は、反乱軍に拉致された中国人富豪を救出すること。そこにとらわれていた意外な人物もついでに助け、富豪を救出した彼らを待っていたのは、CIAのチャーチの脅迫めいた仕事依頼だった。それは、バルカン半島のアルバニア領にあるカザック山脈に墜落した中国の輸送機の金庫からあるデータボックスを回収するという任務で、暗号解読のために、女性エージェント、マギー(ユー・ナン)も同行した。簡単な任務に思われたが、データを発見したところに、ヴィラン(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)率いる謎の軍団が現れ、見張りに当たっていたビリーを人質にデータを横取り。その上、ビリーを殺して、去る。怒りに燃えたエクスペンダブルズの面々は、ヴィランの後を追った…。という、ストーリーはどうでもよい。
眼目は何といってもアクションで、それもエクスペンダブルズの面々に加え、悪役のヴァン・ダム、一匹狼の傭兵ブッカー役のチャック・ノリスと前作ではコメディ・リリーフのみだったブルース・ウィリスとシュワルツネッガーも戦闘に加わるというのだから、見せ場はゲストの大スターたちの活躍というのは、一目瞭然だろう。

何しろ、危機に陥ったエクスペンダブルズを、突如現れたブッカーが敵を一瞬のうちに倒して救うというシュールな展開。これに、”何の伏線もなしに”などと文句をいうのは、野暮の骨頂。かつて、ジェリー・ゴールドスミスのコンサートで会った友人と”「カプリコーン1」と「トータル・リコール」の(音楽の)どこが違うなどと言ってはいけない”というゴールドスミス・ファンならではのジョークを言い合いながら帰った記憶があるが、同様に野暮は言わず、ノリス出現の時にかかる「続・夕陽のガンマン」の音楽にニヤリとし、ネット上でチャック・ノリス・ファクトとまで呼称されるようになったジョークに大笑いすればよいのである。

さらに、クライマックスでは、ブルース・ウィリスとシュワルツネッガーが、小型自動車に押し合いへし合い乗り込み、並んで機関銃を撃つという、80年だからのアクション・ファンにはたまらないシーンがあり、シュワルツネッガーが「I’be back」と言って去ろうとすると、ウィルスが「お前にばかり、戻られてたまるか」と自分が去ってしまうと言う楽屋落ち的ギャグがあるのだから泣ける。
勿論、レギュラー陣の活躍も用意されており、冒頭の中国人富豪救出時の一糸乱れぬ連係プレイと飛行機での脱出のハラハラドキドキ、冒頭で去るジェット・リーにも、ちゃんとアクション・シーンを振り当て、抜け目なく見せ場を作っている。また、殺されるビリーのキャラクターを、殺しに疲れた優しさ溢れる愛すべき純な若者という定番を極めた設定にし、最低限の王道的セオリーを守っているのも、心地よい。

クライマックスのヴィラン一味とのバトル・ロワイヤルもお約束で、ジェイソン・ステイサムやコメディ・リリーフを一手に引き受けるドルフ・ラングレン、そして、ユー・ナンまで華麗な格闘シーンを披露。そして、そして、アクション・ファン垂涎のヴァン・ダムVS.スタローンの一騎打ち!黒ずくめで冷酷非情、憎憎しい悪役を一手に引き受けたヴァン・ダムが、スタローンと正面からぶつかる一大格闘シーンは、アクション映画を愛するすべての映画ファンへのプレゼントとして、最高だ。
と、少々はしゃぎすぎたようで、知性溢れる読者諸兄は引いてしまいそうだ。しかし、例えば本サイトの主催者O氏のような真に知的な人間は、ソクーロフやタルコフスキーの哲学的な深さを味わい尽くす知性とシュワルツネッガーやジェーソン・ステーサムの肉弾相打つアクションを体で味わいつくす感性を兼ね備えており、だからこそ真の知性の持ち主でありえるのだ。

さあ、ここで、他紙に書いた前作の紹介文の一節を引用させていただこう。
ー読者諸兄もまた、(O氏のように)溢れる知性をかなぐり捨て、「燃えよドラゴン」のブルース・リーの名台詞”DON’T THINK.FEEL.”の如く、心の底からこの大活劇を堪能して欲しい。

<CREDIT>

■出演者シルヴェスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、チャック・ノリス、ランディ・クートゥア、テリー・クルーズ、リアム・ヘムズワース、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガー
■監督サイモン・ウェスト
■脚本デヴィッド・アゴスト、ケン・カウフマン
■原案シルヴェスター・スタローン
■製作ベイジル・イワンイク、アヴィ・ラーナー、ケヴィン・キング・テンプルトン、ジョン・トンプソン
■撮影シェリー・ジョンソン
■配給 松竹=ポニーキャニオン

2012年3月2日公開
公式ホームページ http://www.expendables2.jp/

(C) 2012 Barney’s Christmas, Inc. All Rights Reserved.

【ライター】渡辺稔之

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2012年10月22日 by p-movie.com

戦火の馬


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マイケル・モーバーゴが、第一次大戦に取材した同名児童小説、およびそれに基づく舞台劇「軍馬ジョーイ」を映画化したもので、馬の視点で描いた舞台劇が斬新だったために、それと比べられて海外の評は必ずしも絶賛ばかりではないという話を聞いたが、私は良い作品だと思う。
空撮を駆使して馬の誕生に迫っていく冒頭のシーンを見ただけで、”ああ、スピルバーグが帰ってきた”という思いを抱かせ、安定した演出力は、安心して見ていられる信頼感を生み出す。

第1次大戦に徴用された馬のジョーイの数奇な運命を、ジョーイを育てた少年アルバートとの交情を軸に描いた作品だが、中盤、戦争という過酷な状況下でジョーイを守ろうとする人々のエピソードがオムニバス的に展開する。
敵軍に迷い込んだジョーイと黒馬のトップソーンを世話するギュンターとミヒャエルの若い兄弟。
脱走した彼らが残したジョーイとトップソーンをドイツ軍の目から隠す少女エミリーとその祖父。
再びドイツ軍の手に渡った2頭の馬を、奴隷のようにこき使い、使い捨てにする上層部に反発し、イギリス軍の砲撃にさらされたジョーイを逃がすドイツ人砲兵。それぞれの逸話がよどみなく語られ、そこから自然にジョーイを守ろうとする彼らの思いが伝わってくる。

もちろん、スピルバーグならではの映像のスペクタクルも随所にあり、イギリス南西部の美しい自然の中に成長するジョーイを捉えた叙事詩的映像、イギリス兵の突撃シーンの躍動感、戦車に追われ、ジョーイが戦場を逃げ惑うシーンの臨場感等、映画的ダイナミズムを大いに堪能できるのだが、それが一人歩きすることなく、物語を語ることに徹した正攻法の描き方の中に、さりげなくもりこまれているところに、成熟した大人の視点が感じられる。

スピルバーグは、本作のワールド・プレミア時に、3.11の悲劇にみまわれた我々日本人に”希望”のメッセージを送ったが、戦場を駆け抜けるジョーイの勇姿、その力強さは、見る者すべての心に”明日への希望”を湧き起こさずにはおかない。こんな時代だからこそ、一人でも、多くの人に見てもらいたい秀作である。

<CREDIT>

キャスト:ジェレミー・アーバイン、エミリー・ワトソン、デビッド・シューリス、ピーター・ミュラン、ニエル・アレストリュプ、トム・ヒドルストン、デビッド・クロス、パトリック・ケネディ、セリーヌ・バッケンズ、トビー・ケベル、ロバート・エムズ、エディ・マーサン
監督:スティーブン・スピルバーグ
上映時間:147分
配給:ディズニー

2012年3月2日公開
公式ホームページ http://disney-studio.jp/movies/warhorse/

【ライター】渡辺稔之

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2012年2月29日 by p-movie.com

猿の惑星:創世記

これは人類への警鐘

猿の惑星:創世記

各メディアで「泣ける!」「大感動!」との文字があまりに踊っているので、拙レビューではこの二言を禁じてお届けしたい。が、それにしても本作について述べるとなれば、大方の文章はどれも似た書き出しとなるのだろう。

それは「誰もがこの最新作のヒットを予想だにしていなかった」ということだ。

告白しておくと、僕自身の中にも前々から予告や宣伝を見るたびに嘲笑にも似た感情が芽生えていた。また、BBCが伝えていたルパート・ワイアット監督への取材によると、今回の世界的な高評価に誰よりも彼自身が驚きを隠せないのだそうだ。いまだに戸惑いを引きずった彼は、ヒットの要因として「VFX技術をディテールに注いだこと」を挙げている。

それはつまり、ビッグバジェット映画にありがちな大規模カタルシス場面に技術を投入するのではなく、むしろ観客の体内に自然な形で入り込んでいくような場面にこそ手の込んだ作業を施しているということだ。

猿の惑星:創世記

たとえば我々は映画の中盤までくると、あのシーザーをはじめとする猿たちをひとつの個性、ひとつのキャラクターとして認識し、彼らの身体に流れる血潮や感情の起伏を一挙手一投足から読みとっている。これは『アバター』のモーションキャプチャー技術を応用して人間の俳優の顔面の動きまでをも猿の造型に投影したもの。かつてこれほど人間以外の外見をした生き物の感情に寄り添った映画体験があっただろうかと、映画が終わってから徐々に驚きが込み上げてくる。

また、今回の着眼点が我々の暮らしに、または現代社会の要素に深く通低していることも評価の要因だ。

そもそも旧『猿の惑星』シリーズは、アメリカが公民権運動やベトナム戦争に揺れていた時代、当時の観客の意識を“虐げる者”から“虐げられる者”へと転換するのに画期的な役割を果たし、結果的に啓蒙を含んだエンタテインメントとして時代と密接に結びついていった。では今回の新作ではどうなのか。再びこの現代において「権利擁護」を掲げようと言うのだろうか?

いや、そうではない。本作では事の発端となる「アルツハイマーの特効薬」を糸口に、“老いていく生命“と“育ちゆく生命”とのベクトルの交錯点を身を切るほどの切なさで描ききっているのだ。

あの特殊技術で描かれた猿シーザー以上に、かつて怪優として鳴らしたジョン・リスゴーが思いもかけず要介護のおじいちゃん役で現われた瞬間、僕らはいったい何を感じるだろうか。僕は思わず「わー!」とか「ひゃー!」とか声にならない感嘆をあげそうになった。そして次の瞬間、同じような状況を自分の祖母と共に日々繰り返していることに思い至った。これは彼らの物語ではなく、私の物語であり、あなたの物語でもある。

その部分を旧シリーズのような衝撃を持って突きつけるのではなく、ゆっくりと、観客と共に価値観を共有しあっていく目線の在り方が心優しく、とても受動しやすいのだ。

かつて未来世界の黙示録を描いた『猿の惑星』はいま、観客と同じ風景と日常を見つめている。それはこの混沌とした時代を、憎しみ合いではなく慈しみ合いで乗り越えていこうとする作り手の意識の現われのような気がする。

たとえ未来の結末がすでに(旧作によって)定められていようとも。

猿の惑星:創世記

公式ホームページ http://www.foxmovies.jp/saruwaku/
10月7日(金)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー

(c) 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation

【ライター】牛津厚信

猿の惑星:創世記

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2011年10月17日 by p-movie.com

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

なぜ彼は、世界最初のヒーローと呼ばれたのか―。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

コミックスでは1941年に初登場を果たした、マーベルの中でも最古参ヒーローのひとり。この全身を星条旗であしらったかのようなコスチューム・デザインを一目見るや、なぜ彼がマーベル映画の世界戦略において最後の最後まで“出し渋り”されていたのか理解できるというものだ。

アメリカがまだある程度、世界のリーダーとしての余力を保っていた時代に彼がお目見えしたなら、それは世界中の反感を買ったことだろう。今だから許される。すっかり弱体化してしまったこの国に星条旗男の映画が産み落とされたとして、それはアメリカ万歳という発想には直結しない。むしろ生じるのは古き良き“ノスタルジー”。それを、あのロケットボーイズたちの挑戦劇『遠い空の向こうに』の名匠ジョー・ジョンストンが描くのだとするなら、そこで立ち現われてくるであろう“ほろ苦い空気”を観賞前の我々がイメージするのはそう難しいことではない。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

主人公は小柄な体格で幾つもの持病もちの青年スティーヴ・ロジャース。1940年代、アンクル・サムが”I Want You!”と指をさして若者たちの戦意を高揚させていたころ、彼は幾度となく兵役検査に引っ掛かり入隊を断られていた。しかし彼ときたら、おそらくマーベル・コミックのヒーローたちの中でも1、2位を争うくらいに真っ直ぐな人間。映画の中でいくつも重ねられていく善人エピソードの数々。そうしていつの日か、彼にチャンスが訪れる。軍が進めるスーパーソルジャー計画の被験者となってもらいたいとスカウトされるのだ。二つ返事で承諾した吹けば飛ぶようなヒョロヒョロな彼は、装置に入って出てくるや筋骨隆々のたくましい男へと様変わりしていた。

時は満ちた。このとびきりのパワーを使って彼はナチス・ドイツ極秘計画の粉砕にいざ向かう!!

などと、すんなりとはいかないのだ。

ページをめくると彼はステージ上のヒーローとして全国行脚しながら観客に戦時国債の重要性をミュージカル調でアピールしている。今や彼はアンクル・サムと同じ位置に収まった。もちろんスーパーパワーは持ち腐れ。それは彼を深い葛藤へと追い込んでいく。

そしてある日、仲間の突撃部隊が敵陣で消息を絶ったとの情報を耳にしたとき、彼の中で固い決意が奮い立つ。ステージ上のキャプテン・アメリカは遂に現実のスーパーヒーローとなって、いま、最も危険なエリアへたった一人で突入劇を敢行しようとしていた―。

長い!ここまでが長い!ヒーロー映画というよりは、ひとりの男の苦悩を綴ったドラマがひたすら続く。しかしそれが駄作であるというわけでは毛頭ないのだ。むしろ、だからこそ面白い!ドラマ最高!ビバ!ノスタルジー!まるで『遠い空の向こうに』の青年たちが、ひとつのロケットを空高く打ち出すべく醸成していった人間ドラマのように、ここでもスティーヴ・ロジャースがヒーローとして起つまでをひたすら根気強く、丁寧に映像化していく。

とりわけジョンストン作品で幾度も描かれる“父子の関係”がここでもポイントとなる。そもそもロジャースには父親がいない。でもだからこそ、彼の長所を最初に見抜いた亡命博士(スタンリー・トゥッチ)との間に堅い絆が垣間見られる瞬間がある。

そして軍隊生活ではトミー・リー・ジョーンズ演じる気難しい大佐の背中にも武骨な父親像が見え隠れする。彼らの一方通行のやり取りがまるで分かりあえない父子のようでなんとユニークなことか。

彼らトゥッチとジョーンズのキャラがふたつ合体すると、理想的なロジャースの父親像ができあがってくるかのようだ。

また、もうひとつの鍵となるのが次回作(2012年夏公開)となるマーベル・ヒーロー大集合ムービー『アベンジャーズ』への布石である。『アイアンマン』、『マイティ・ソー』との結節点を多分に盛り込み、人物、アイテム、世界観などが密接に絡まり合っていく様を、息を呑んで見守ることになるだろう。

そして訪れるラスト、『アベンジャーズ』と時代背景を合わせるべく、キャプテンは現代へと降臨を果たす。その衝撃はしかと本編で確認していただくとして、そのクライマックスが本当に切ない。こんなんでヒーロー映画と呼べるのかってくらい切なすぎる。試写が終わって感想を口にする人たちからも幾度となく「せつねー!」という声が漏れ聞こえた。とくにロジャースの最後のセリフにホロッと泣かされてしまう。

この余韻に浸りながら、今日、もう何度目だろう、またもや『遠い空の向こうに』のキュンキュンくる感触のことを思い出していた。そして帰り路のあいだ中、今日は早く戻って、あの名作のDVDを蔵出し再見しようと心に決めていた。

僕の中で『キャプテン・アメリカ』はマーベル映画でありながら、やはりジョー・ジョンストン印の、何かが噴射して空高く上昇していく高揚と感動に満ちた映画なのだった。

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

公式ホームページ http://www.captain-america.jp/
10月14日(金)丸の内ルーブルほか全国超拡大3D公開

(C)2010 MVLFFLLC. TM &(C)2010 Marvel Entertainment, LLC and its subsidiaries. All rights reserved.

【ライター】牛津厚信

キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー

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カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2011年10月17日 by p-movie.com