ブルーム・オブ・イエスタディ

ハクソー・リッジ


(C) 2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

時は、現代。ホロコースト研究所に勤めるトト(ラース・アイディンガー)は、ナチス親衛隊の大佐だった祖父を持ち、家族の罪に真剣に向き合うあまり心はいつも不安定。さらに、2年もかけて企画した“アウシュヴィッツ会議”のリーダーから、外されてしまう。最悪の精神状態で、フランスから来るインターンのザジ(アデル・エネル)を迎えに行く。到着した彼女は、トトの下で研修できることに感激したのも束の間、迎えの車がベンツだと知ると、激しく怒り出す。ユダヤ人の祖母が、ベンツのガス・トラックでナチスに殺されたというのだ。(実際はトトの言う、「本当はベンツではなく、オペル・ブリッツかマギルスである。」は正しい。オペルは約10年前まで国内販売もされていた乗用車メーカー、マギルスは消防車に特化したメーカーだが、両社は戦争中、共にナチスのために軍用トラックを多く生産していたのである。そしてそれはあらゆる用途に使われたのだ。)彼女はヒトラーの飼っていたシェパード(ドイツ犬だから)は安楽死させるべき。とも言い放つ。まさに、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」状態である。スタート地点は真逆だが、同じ目標のためにアウシュヴィッツ会議を企画することになった二人。トトはコロコロと気分が変わるザジに唖然とし、ホロコーストの被害者の孫なのに、何かと歴史を茶化す、ザジの破天荒なブラックユーモアにも我慢ならなかった。
ある日、会議を欠席すると言いだしたホロコーストの生還者で女優のルビンシュタインを説得する役目を担った二人。トトはここでも「あの悲劇を分かってない」と暴言を吐き、女優を怒らせてしまった。帰り道ヤケになってネオナチの屈強な男たちにケンカを売り、返り討ちにされたところをザジに助けられるトト。ザジの寝室で手当てを受けていたトトは、目を疑う“ある物”を見つける──。


(C) 2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

オープニングから畳みかけるようなユーモアと毒舌の連続に、ホロコーストというシリアスな題材で笑っていいのかと不安を覚えた私たちは、“ドイツ、ウィーン、ラトビア”へと過去を追いかける二人の旅に同行しながら気付いていく。すべての人間に、どんな傷でも癒せる、素晴らしい力があることに。困難な日々の中にも必ず美しい花のような瞬間があり、昨日咲いた花(ブルーム・オブ・イエスタディ)が、今日、そして明日を輝かせてくれる。監督はスマッシュヒットした『4分間のピアニスト』のクリス・クラウス。主人公と同じように、家族にダークな過去があると知り、大変なショックを受け、自らホロコーストの調査を重ねた。その際に、加害者と被害者の孫世代が、歴史をジョークにしながら楽しそうに話している姿に触れ、本作のアイデアが浮かんだという。当然ながら、彼らが親族の経歴を忘れたわけでも、そこから受けた心の痛みが消えたわけでもない。出演は『パーソナル・ショッパー』のラース・アイディンガーと、『午後8時の訪問者』のアデル・エネル。
ドイツでは、ホロコーストを題材にした映画は何本もつくられ、最終的には戦争自体の愚かさを訴えるというステレオタイプの作品に終始した。それでも、過去に囚われずに、希望と共に未来を生きようとする世代のために、新しいアプローチの映画を作ることを決意した監督。この切り替えによってドイツ国内で高く評価されるだけでなく、昨年の第29回東京国際映画祭においても、東京グランプリを獲得した。


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ナチス映画…ではない。と感じてしまうのも監督の目論見にはまってしまったからなのか?
ホロコーストという重いテーマ、2人は背景が敵同士という関係にありながら、互いに愛情が目覚めてくる。背景だけを取り除けば、まんまラブコメではないか!
ナチスを感じさせない、作品中にもそのようなことを思わせる場面も、描写もない。コミカル、ユーモア。それでいて2人の愛憎のたどたどしいぶつかりあいに、いったいラストはどうなっていくの? もどかしさをずっと感じながらも、ラスト…。切なさと明日への希望を感じさせるラストにほっとした。ナチス映画の歴史が変わるに違いない、エポック・メイキングな作品が完成した。

<CREDIT>

■出演者:ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ハンナ・ヘルツシュプルング
■監督:クリス・クラウス
■配給:キノフィルムズ・木下グループ
■2016年/ドイツ・オーストラリア/126分
■原題:『DIE BLUMEN VON GESTERN』

2017年9月30日(土)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次ロードショー公開中

公式ホームページ
http://bloom-of-yesterday.com/

(C) 2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

【ライター】戸岐和宏


カテゴリー: ヨーロッパ | 映画レビュー

2017年10月3日 by p-movie.com