9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~

目覚めると、世界は終わっていた。

review-0514-2_01.jpgアメリカでは09年9月9日に封切られたこの風変わりなアニメーションが、いよいよ日本にも上陸する。

きっかけはひとりの男が卒業制作として手掛けた11分の短編アニメーションだった。その独創性とクオリティの高さに魅せられ、ダーク・ワールド大好きなティムール・ベクマンベトフ(『ウォンテッド』『ナイトウォッチ』)やティム・バートンらはすぐさま自らの手で長編映画化しようと考えた。しかしすぐにそれは得策ではないと思い至る。むしろこの30代の新人シェーン・アッカーという才能を世に紹介すべきではないか、と。そうしてベクマンベトフ&バートンが製作を引き受ける中、ひたすら陰影の濃い長編アニメとして生まれ変わったのが『9 ナイン』である。

目覚めると、世界は滅亡していた。

人類は死に絶え、空には暗雲が垂れこめている。この不気味に荒廃した世界を、自分が何者かもわからない奇妙なキャラクターがトボトボ歩く。胸元には大きなチャック。背中には「9」という謎の番号。

やがて彼は自分と似た造型の仲間たちと出逢う。名前を持たず、互いを「1」から「8」までの数字で呼び合う彼らは、「9」と同じく、生まれつきその数字を背中に宿していた。そしてふと気を緩めると、彼らを狙って恐ろしい機械仕掛けのモンスターらが容赦なく襲い来る。。。
review-0514-2_02.jpg確固たるヴィジュアリティに支えられた終末論的な世界観に加え、この戦闘シーンがひとつの見せ場となる。モンスターの動きや仕掛けにも様々な趣向が詰めこまれ、観客が予想だにしない大胆なカメラワークで攻守を描く。彼らは人間ではないゆえ、ボロボロに傷つきながら、なかばぶっ壊れそうになりながらもまだ闘える。その安全装置を解除したようなスピード感と予想不可能性の連続が次第にボディブローのように効いてくる。他のアニメーションとちょっと違うぞという想いが確信へと変わる。

暗黒にうごめく緑色の蛍光色。その不気味なコントラストに『マトリックス』を思い出す人も多いだろう。アクション面では紅一点「7」(VC:ジェニファー・コネリー)の身のこなし&シルエットが『鉄コン筋クリート』のクロを彷彿とさせる。また闘う仲間が9人という設定はまさに「サイボーグ009」が培ってきたお家芸だが、クリストファー・プラマーがヴォイスキャストを務める爺さんキャラ「1」には、どこか『七人の侍』の志村喬を思い起こさせる佇まいさえある。

かくも至るところに過去の名作のエッセンスを感じるが、それが嫌味として照射されることはない。むしろ新人らしい諸先輩たちへの溢れんばかりのリスペクトとして受け止めた。そして本作もこの先、先人の志を継ごうとする者たちにとっての力強い灯火として輝き続けることだろう。

「9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~」
2009年 アメリカ映画
カラー 80分

【スタッフ】
原案・監督: シェーン・アッカー
製作: ジム・レムリー、ティム・バートン、ティムール・ベクマンペトフ
脚本: パメラ・ペトラー

【キャスト(声)】
イライジャ・ウッド
ジョン・C・ライリー
ジェニファー・コネリー
クリストファー・プラマー
クリスビン・グローヴァー
マーティン・ランドー
フレッド・ターターショー

配給:ギャガGAGA★
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20105月8 日(土)より全国ロードショー
公式HP:http://9.gaga.ne.jp/

【映画ライター】牛津厚信


カテゴリー: アメリカ | 映画レビュー

2010年5月10日 by p-movie.com