『激情』監督&主演女優インタビュー

東京国際映画祭、審査員特別賞受賞!
かつて南米よりスペインへ移住してきた男と女。建設現場で働くホセ・マリアが恋人へ注ぐ激しすぎる愛情は、彼の犯した罪をきっかけにやがて究極のカタチへと豹変しはじめる・・・。TIFFコンペティション部門に出品された世にも奇妙なラブストーリー『激情』。その監督&主演女優コンビにお話を伺いました。

gekijou01.jpg―なんと奇妙な物語なんでしょう。殺人を犯した移民の男が、恋人の給仕するお屋敷に忍びこみ、屋根裏に隠れながら彼女の生活をじっと見守り続ける…。直観的な感想で恐縮ですが、すごく日本人好みの映画なんじゃないかな?と思いました。

セバスチャン・コルデロ(監督)
「公式上映での日本のお客さんの反応も上々でした。あなたが言うように、何か日本人の感性を刺激するものがあるのかも…。実は、撮影初日に友人が日本の怪奇話を教えてくれたんです。とある男の住むアパートに見ず知らずの女が隠れて暮らしていて、男が外出したりベッドで眠ると彼女がゴソゴソ這い出してきて、冷蔵庫の食べ物をあさる…。僕らが描こうとしている物語とエッセンスがよく似ていて、日本に対して親近感を持ちました」

―確かにその都市伝説はよく耳にします(笑)。でもこれらの題材って、日本で映画化されるとなるとたいていホラーになるんですよ。逆にコルデロ監督はとことんリアリズムにこだわっている。とてつもない力量を感じました。

セバスチャン・コルデロ
「ありがとう。僕はジャパニーズ・ホラーも大好きだけどね(笑)。この映画の状況設定はあきらかに現実離れしています。けれど、そんな中でも僕は”信じられる物語”を描きたかった。そのために、登場人物の感情の流れを突き詰めて考え、それを忠実に視覚化していったんです。それがリアリズムの醸成に一役買っていると思う」

―なるほど。一方のマルチナ・ガルシアさんは、この風変りな作品に出演するにあたり戸惑いはありましたか?

gekijou02.jpgマルチナ・ガルシア(主演女優)
「ええ、もちろん(笑)。私自身、役に入り込むタイプの女優なので、撮影中は家族や友人やボーイフレンドを忘れてこのキャラクターに徹しました。そして重要なのはこの映画がセットではなく、実在するお屋敷を使って撮影されたということ。民家と教会とあのお屋敷しかない町で、私たちはほぼ缶詰め状態でした。ほんとうに膨大な時間をあの撮影現場で共有し、四六時中、自分の演じるキャラクターと向き合っていたんです」

―妊娠、出産でどんどん体型の変わっていく役でもありますね。

マルチナ・ガルシア
「そうですね。撮影中のみならず、私のお腹は休憩中も(詰め物で)大きいままでした。これがひとたび限界を超えるとなんだか愛おしく思えてくる。とてもリアルな、本当の子供が育っているような…。この映画を見直すたびに奇妙な想いに囚われるんです。私はこの時たしかに妊娠していた…けれど今、赤ちゃんはいない・・・と(笑)」

―監督はガルシアさんにどのような演技プランを提示したのでしょう?

セバスチャン・コルデロ
「僕の演出スタイルとして、できるだけ会話をすることを重視します。あまりリハーサルを重ねるのではなく、たくさん言葉を重ねることでみんなと同じ方向性、同じ認識を持ちたいと考えているんです。その上で、私が主演俳優のふたりに言ったのは『最高のラブストーリーとは、決して成就しないものである』ということ。これが『激情』の最も強い流れを生みだしていると思う」

マルチナ・ガルシア
「ええ、あのサジェスチョンはとても参考になりました。それに加えてセバスチャンが監督として素晴らしいのは、キャラクターを平等に見つめる目線だと思う。どの役者に対してもオープンで、誰の意見にも真摯に耳を傾けてくれる。それぞれの役の描かれ方について役者たちと何度も確認を繰り返していたのが印象的でした」

―世界的にも有名なギレルモ・デル・トロがプロデューサーを務めていますが、コルデロ監督から見た彼の印象をお聞かせください。

セバスチャン・コルデロ
「ほんとうに素晴らしい人で、映画作りに対する直観的な感性の持ち主です。何て言えばいいんだろう…現場でこうやれば巧くいくという方法論をあらゆる面で熟知している人。僕の前作『ダブロイド』でも製作を務めているけれど、あのとき僕は彼から編集についてたくさんのことを学びました。今後もぜひ一緒に仕事を続けていきたいですね」

gekijou03.jpg―最後におふたりにお聞きします。いま映画界は世界的に低迷していると言われていますが、おふたりが信じる”映画の可能性”は何でしょう?

セバスチャン・コルデロ
「たしかに、ハリウッドに目を向けても、ビジュアル的にはチャレンジングな作品も多いけれど、題材やストーリーの面で明らかに枯渇してきている。でもその反面、こういう映画祭にやってくると、これまで想像もしなかった大胆なアプローチに出逢えることが多々あります。監督もクリエイターも一歩踏み出して、さらなる表現を追究していかなきゃと奮起させられる。こういうアクティブでアーティスティックな空気が持続する限り、僕はとても楽観的でいられるんです」

マルチナ・ガルシア
「じつは私もすごく楽観視しています。経済危機の煽りはあるけれど、世界に目を向けると、とくに南米のほうから新しい声が聞こえている。新たな感性を持った監督、俳優が次々に生まれているんです(コルデロ&ガルシアも南米出身)。これから日本の皆さんにも、ぜひ南米に注目してもらいたいですね」

公式サイト:
東京国際映画祭 http://www.tiff-jp.net/ja/

【映画ライター】牛津厚信


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