密告者(東京フィルメックス 2010.12.06)

東京フィルメックスにダンテ・ラム監督のクライム・アクション映画『密告者』がお目見えした。

会場に足を踏み入れて驚いたのは、その観客の多さだった。終映時間が23時を越えるにも関わらず客席の8割が埋まっている。これまでジョニー・トー、ヤウ・ナイホイ、ソイ・チェンらを紹介してきた「フィルメックス香港アクション&サスペンス枠」は今なおそのブランド力を発揮しつづけているようだ。

本作は貴金属店を狙う凶悪強盗団を一網打尽にすべく送りこまれたひとりの密告者(内通者)と、彼と連絡を取り合う刑事をめぐる手に汗握るアクションだ。

『ブレイキング・ニュース』『エグザイル』『コネクテッド』などの熱い演技で知られるニック・チョンが、今回は黒ブチ眼鏡をかけ外見はクールにその分、内面で激しく想いをたぎらせる。また、ニコラス・ツェーがスキンヘッドで密告者役を、台湾女優グイ・ルンメイがこれまでとはガラリと印象を変えた犯罪者役で登場するなど、そのキャスティングにも見ごたえたっぷり。

それに香港アクションといえば、もはやお馴染みとなりつつある市街地ロケの生々しさはこの映画でも相変わらずだ。ひょんなことから巡りあった密告者とひとりの女性とが手を取り合って警察の追跡を交わしていくシーンでも、歩道には溢れかえるほどの群衆が「何事か?」とその様子を眺めやり、もはや彼らがエキストラなのか本当の通行人なのか皆目分からない。そんな予想不可能性すら包含しながら、無軌道に膨張していくのも醍醐味のひとつ。

また、いざという見せ場に及ぶと、これがダンテ・ラムのお家芸なのか、どんどん閉所へと追い込まれていく独特の息苦しさが襲い来る。駐車場の車両と車両の狭間で身動きが取れなくなっていく窮屈感、廃校にておびただしい数の机や椅子を懸命にかき分けて逃げ道を開拓せざるを得ない絶望感など、これまで「アクションは広い場所で撮るもの」とされてきた常識を覆す新たな演出の妙を垣間見た想いがする。なので、悪役キャラの弱さと、時に話を詰め込み過ぎて「あれ?」と首を傾げてしまうのもご愛敬といったところか。

中国本土に押され気味の香港映画界だが、こんな崖っぷちだからこそこれからもちょっと変わったアクションの形が多数輩出されていきそうだ。変貌していく街並み、そこで巻き起こるエンタテインメントの息遣いを、また来年もフィルメックスで伝えてほしい。

『密告者』 The Stool Pigeon / 綫人
香港 / 2010 / 112分
監督:ダンテ・ラム (Dante LAM / 林超賢)

公式サイトアドレス http://filmex.net/2010/

【ライター】牛津厚信


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2010年12月6日 by p-movie.com