『少年トロツキー』ジェイコブ・ティアニー監督インタビュー

東京国際映画祭・観客賞受賞!
「僕はトロツキーの生まれ変わり!」と宣言した少年が、カナダ・ケベック州の公立学校に革命旋風を巻き起こす…!TIFFコンペティション部門に出品された大興奮の革命狂想曲『少年トロツキー』より、若き奇才となったジェイコブ・ティアニー監督にお話を伺いました。

tiff2009-04-1.jpg■トロツキー?

――まずタイトルからして強烈なわけですが、歴史上の人物から”トロツキー”を選んだ理由をお聞かせください。

「それは僕自身、トロツキーが好きだったからだよ。彼の人生ってすごくバラエティに富んでいて、ロマンティックでもあった。また彼は多くのものを創造し、多くのものを犠牲にした。歴史を知的に変えようとし、また構造的に変えようともした。こんな具合に常にふたつの局面を持ち合わせているところに惹かれたんだ」

―あと、”トロツキー”っていうサウンドがキャッチ―ですよね。

「そうだよね!仮に”The Lenin(レーニン)”ってタイトルにしてごらんよ。みんなそのサウンドに『えっ、(ジョン・)レノンの映画!?』って誤解しちゃうよ(笑)。かといって僕がスターリンにインスパイアされるかっていうと、それは無い。全編が粛清の嵐で、少なくともコメディではなくなるからね(笑)」

――ちなみに、本作のプロデューサーはあなたのお父様ですね。映画の主人公は父親の工場でハンストを起こしますが、ティアニー父子の関係性もやはり…?

「ハハハ。それは大丈夫!なにも問題はなかった。すべて納得づくで、平和的に事が運べたよ」

■ケベックという可能性

――今回の映画祭には文化のせめぎ合う場所からたくさんの物語が集結しいています。その意味で本作の舞台となるカナダのケベック州も映画人の感性を刺激する土地と言えそうですね。

「うん、対立する場合もあるけどね。ハーモニーを築いて共存している場合もある。今回の映画ではなるだけ希望の部分を描きたいとは思ったけれど」

――僕は仮装パーティーのシーンが好きなんです。すごくコミカルなんだけど、登場人物それぞれのアイデンティティが爆発していて。

「あのシーンは楽しいよね。なにしろテーマが”社会主義”だし」

――ジョージ・オーウェルの「動物農場」の扮装をしている生徒までいました。

「そうそう(笑)。映画の雰囲気と同じく、撮影現場でもとにかくみんなでアイディアを出し合って楽しもうと思った。良い衣装があれば自分で持ってきていいよ、ってね。たとえば、アラビアのロレンスの格好をした子がいたんだけど、あれも彼が自分で調達したものなんだ」

――あのダンス・フロアの文化の混雑ぶりはケベックの象徴なんですか?

「うーん、たぶん違うな。たしかにケベックにはいろんな人たちやアイディアに溢れてるけど、あれほど大それたものじゃないよ」

――そうか。僕はてっきり、文化ってものああいう具合に混ざりあって、新しいものに生まれ変わっていくのかなって勝手に解釈していて。

「うん、それはそのとおりだと思う。それがユース・カルチャーだよね。レオンは自分を貫きとおす少年だけど、唯一あのシーンではみんなに楽しんでもらおうと心から奉仕する。あれは彼が周囲に影響されて、突き動かされた瞬間でもあったんだ。彼も混ざり合って変わっていってるんだよ」

――ちなみにこの映画は音楽も素晴らしくって。ケベックのバンドですか?

「うん。モントリオールを拠点とする”マラディブ”というバンドが中心になってくれて、ほかの挿入歌もすべてご当地バンドだよ。この地の音楽はいまとても活気があってね。みんな僕の友人でもあるので、彼らの才能をぜひ世界に紹介したかったんだ」

tiff2009-04-3.jpg■退屈と無関心と、オバマの台頭

――やがてレオンの前に立ちふさがる全校生徒の「退屈と無関心」という壁についても面白く見ました。

「たぶん、ユース・カルチャー特有の傾向なんだろうね。だけど実際に若者と接してみると、決してそんな判を押したような状態じゃないってことが分かる。僕が試みたかったのは、そんな彼らのハートに火をつけて、『さあ、若者たちよ、どうする!?』と問いかけることだったんだ」

――現実問題として、オバマ大統領の登場によって世界の停滞感は改善しましたよね。

「うん、そうした意味ではこの映画は時代の空気を捉えてるんじゃないかな」

――製作と同じ速度でオバマ・ブームが盛り上がってきて、現場も相当盛り上がったんじゃないですか?

「みんな興奮していたよ。僕らの映画とおんなじことがアメリカでも起こり始めたな、って(笑)。オバマの素晴らしさは人々に希望を持つ喜びを思い出させてくれたことだと思う。それが叶うかどうかはまた次のステップとして、ひとつひとつ対処していけばいい。そもそも僕らは、長い間、希望という言葉を忘れてたよね」

tiff2009-04-2.jpg――最後の質問です。いま映画業界の苦境が言われていますが、あなたは映画界のどの部分に”可能性”を見ますか?

「正直言ってとても難しい時期だね。とくにカナダで製作される英語映画に関しては、外見はハリウッド映画と同じなんだけど、でも製作費的には格段の差があって、比較されると僕らに勝ち目はない…」

――ええ。

「でもね、僕は根本的に楽天家なんだ。だからこうポジティブに捉えたい。『世界のどこかで僕の小さな映画を楽しんでくれる観客が必ずいる』ってね!」

公式サイト:
東京国際映画祭 http://www.tiff-jp.net/ja/

【映画ライター】牛津厚信