『エイト・タイムズ・アップ』監督&主演女優インタビュー

東京国際映画祭、女優賞受賞!

職もない、息子に会えない、部屋も追い出される。人生のどん底に陥ったミドル三十路のバツイチ女性が、哀しくも爽やかな日々の先に見つけたものは・・・?

TIFFコンペティション部門に出品された”七転び八起き”フレンチ・ムービー『エイト・タイムズ・アップ』より、来日中のシャビ・モリア監督、そしてこのたび晴れて女優賞の受賞を果たしたジュリー・ガイエさんにお話を伺いました。

pmg_img2009110201.jpg●散歩と歌舞伎

―この映画では「履歴書の趣味欄に何と書けば効果的か」という、まさに就活中の方には必見の問答が登場します。そこで飛び出すのが「歌舞伎と散歩」だったり「禅」だったり。日本人にとって興味津々の内容なんですけど(笑)。

シャビ・モリア(監督)
「いちおう言っておきますが、日本のマーケットを狙って”ジャパネスク”に走ったわけじゃありませんよ(笑)。僕自身、日本の文化にはとても魅かれるところがあります。で、同じく今回の主人公も正当な道からちょっとはみ出した女性なので、彼女のキャラづくりのためにも日本の要素をお借りしたというわけです」

―実際の就職活動上でも、このフレーズは実用的でしょうか?たとえばおふたりがオーディションを開くとして、趣味欄に「散歩と歌舞伎」と記入してある応募者を採用しますか?

ジュリー・ガイエ(主演女優)
「私は採用するわよ(笑)」

モリア
「僕も採用する(笑)。”能”って書いてくれたほうが好みだけど」

―ちなみに実際に歌舞伎をご覧になった経験は?

ガイエ
「私はパリで観劇しました。シャイヨー宮で、エビゾウ(海老蔵)さんとお父様の公演を拝見して、それはもう素晴らしかった・・・」

モリア
「僕は今回、カブキザ(歌舞伎座)の前まで行きましたよ。初めての観劇を果たしたかったけれど、入口にお年寄りの方がズラーッと並んでらっしゃるでしょう?中には疲れて座り込んでる方もいらっしゃって。その光景だけでお腹いっぱいになり、今回は断念しました」

●それぞれの初挑戦

―モリアさんは本作で長編監督デビューを飾りましたが、これまでにも小説や短編など様々な形態で作品を発表してこられてますね。

モリア
「僕は毎日、目が覚めるとすぐ誰かに物語を伝えたい衝動に駆られるんです。いろんなストーリーが頭をよぎるんだけど、それぞれに合ったベストな表現方法ってのがあって、これは小説、これは映画、そして僕は漫画の脚本も書いてますから、このストーリーは漫画にピッタリって時もある。唯一、ポップ・ソングを作ったときはあまりうまくいきませんでしたが(笑)」

―あ、うまくいかないときもあるんだ(笑)

モリア
「とある歌手のために作詞を任されたんです。出来上がったものを読んで『難しすぎてよくわからない』と言われました」

―もう一方のガイエさんは『ぼくの大切なともだち』や『メトロで恋して』などで女優として知られ、今回は主演のみならずプロデューサーにも挑戦されてます。

ガイエ
「ええ、長年この業界で女優としてお仕事してきて、少しは人脈もあるつもりなので、資金面で協力してくれる人を探したり、他の様々な才能を持った人材に引き合わせたり、おもに企画のセッティング部分を担ってきました。でも、いざ撮影現場に入ると、私は女優業に集中!とにかく才能あふれるモリア監督が長編デビューするにあたり、彼が頭に描いたことを少しでも実現してほしくて、努力を惜しまなかったつもりです」

モリア
「彼女は脚本執筆の段階から様々なビジョンを提示してくれました。僕にとってはプロデューサーや女優である以上に、”作品作りのパートナー”という言葉がいちばんしっくりくる存在です」

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●フランス流”七転び八起き”

―そんなおふたりのコラボレーションの賜物として、この映画はシリアスな状況を爽やかで気持ちのいい空気へと昇華させてくれました。かといって「大逆転ムービー」というわけでもなく、まさに独特の世界観ですね。

モリア
「ラブコメの女王が活躍するハリウッド映画ではないのでね(笑)。この映画のラストは明るい希望に包まれて幕を閉じますが、かといって彼女がいわゆる人生の”勝ち組”へのしあがっていくかっていうと、そうではないわけで・・・」

ガイエ
「(モリアの発言を引き継いで)答えは”ゴール”ではなく”過程”にこそある、と思うんです。この映画をご覧になる方には、ぜひ主人公の心理的な変化に注目してもらいたいですね。たとえば…あなたは気がついたかしら?映画の中で彼女は、自分から進んでは誰にもタッチしないんですよ」

―あ・・・確かに!誰とも触れてないですね!

モリア
「彼女はこれまで”人に触れる”ってことに憶病になっていた。けれど彼女は変わるんです。クライマックスには自ら進んで子供をギュッと抱き締める。あのシーンは彼女の人生で最大規模の事件だったんです」

ガイエ
「彼女はきっと自分自身を愛することができない人間なのね。でも、大きな一歩を踏み出せた…。そこが私たち流の”七転び八起き”といえるでしょうね」

―本日は貴重なお話、ありがとうございました!

公式サイト:
東京国際映画祭 http://www.tiff-jp.net/ja/
Eastern Plays http://www.easternplays.com/

【映画ライター】牛津厚信